
偶然とは、もしかしたらあらゆることの原因ではないだろうか? それが必然だ、と言う疑り深い人もまた居る。
ニューヨーク。あるオフィス。この街の歴史を感じさせる大切な物に囲まれた小さな会議室。
「楽しい週末になるといいね」
「ジャックダニエルスの大瓶よ!」
ぼくはふたりの会話に頭を傾げる。
「俺たちの週末は飛行機で空の上さ……」
意識を雲のうえにぷかぷか気持ち良く漂わせていたら、いつの間にか、ふたりの話が不穏な響きを帯びはじめており、ぼくの意識は会議室に引き戻される。

「銃を撃ちたいんだ」
「銃を? 偶然ね。わたしも撃ちたいと思ってたの」
「ニューヨークに銃を撃てる場所ないかな」
「銃を撃つのって、極めたい技術よね。こないだの週末、旦那にそう言ったの。そうしたら彼、おまえがそんな風に大酒飲みながら拳銃なんて手にした日には、俺はすぐにここを出て行くからな! だってさ。あははは」
「銃を撃ちたいよ…… ニューヨークならどこかあるはずだ」
彼女は、探るような目で、彼を見ている。
ぼくは我に帰って、彼女に尋ねる。
「銃を撃つのは、技術じゃないよね?」
彼女の黒い目が光る。
「銃を撃つのは、技術よ。それも大切な技術」
ぼくは頭を抱える。銃を撃つのは技術なのか、爆発する感情なのか、それを考え、悩む。確かに、銃を扱えなければ、撃つこともできないだろう。でも銃は、そもそも扱い易くデザインされているのではないのか。この右手にしっかりと納まるようなグリップが…… ちょうど人差し指の力が加わりやすい位置にあるトリガーが…… 不用意に人に向けたら、お終いだ。 ……ぼくにはできない。

「俺は人には向けないよ」
「……ウエストリバー射撃場があるわよ」彼女が頷く。
うそ!? ほんとに撃っちゃうの? えーっ!! ちょっとちょっと、待って! 待ってください。ほんとに撃つんですか? って言うか、なんでそんな場所があるって、もう知ってるの? 予め探してあったの? 「……YES。銃は、重いわよ」
ふたりは楽しそうに笑っている。想像くらいつきますよ、重いのは。
「また会うのを楽しみにしてるよ。自分の足を撃たないようにしないとね!」
「わたしもよ。こんな話になるとは思わなかったわ」
「俺もだよ。今度またニューヨークに来るのが楽しみだ」
「あんまり、人前ではできない話よね。くれぐれも、お酒には気をつけてね」
ふたりは、意味あり気に微笑んでいる。
おいおい、勘弁してくれよ! そういうことか!? どういうことだ!?
「もちろん、ぼくは行きませんからねっ!」
「おお、いいよ。俺だけ行くから。その間、ギャラリーでも回ってきなよ」
……ということで、SOHOにある、某ギャラリーに出向いた。聞いていたとおり、強烈なインパクトを感じさせる作品群が、壁に並べられ、展示されている。長く付き合いのある仕事仲間の母親が運営しているという情報を得て、早速訪ねたのだ。なにかはあるだろうと感じていたが、予想通り、素晴らしかった。なるほど。
彼女が階下から階段を上ってくる、軽い足音が聞こえる。
「まさか本当に来てくれるとは思わなかったわ〜〜っっ!」
posted by マリオ曼陀羅 at 15:11|
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