アメリカの文芸誌サイト、Evergreen Review に今月掲載されたStephen Beachy著『Glory Hole』というノアール臭ぷんぷんの刑事モノ(長編からの抜粋掲載)の味付けとして9点、僕の絵が採用されました。
フィリップという刑事が、アイオワの多分ど田舎での葬式に行き遅れたシーンから、抜粋部分が始まりますが、その後アーミッシュの集落での聞込み調査に移るので、アイオワにもアーミッシュの人々が住んでいるのかと、ちょっと驚いた。アーミッシュとは電気や家電一般をコミュニティでの生活から排除し、祖先が移民してきた当時のままの生活を今でも営んでいる人々で、要はある種のキリスト教の伝統主義とでも言ったら良いのでしょうか。僕が住んでいたフィラデルフィアを州都とするペンシルバニア州に大きなコミュニティがあるのは有名で、フィラデルフィアのレディング・マーケットという市場に出かければ、アーミッシュの人たちが農作物や食料品(もちろんすべてオーガニック&手作り)や、ちょっとした工芸品などを売る店を出していたけど、まるでタイムスリップして現れたかのような彼等の出で立ちに、当初は目が釘付けになった。生活様式が独特も独特の超独特らしく、興味あればWikipediaの項でも見てみてください。外界にとってみれば、彼等の生活は未だ多くの謎に包まれており、その黙して語らないアーミッシュの人々を相手に聞込み調査を始めるっていう難易度の高い課題が、フィリップの今回の仕事に含まれている模様。ご苦労様です。
アメリカの小説が好きなのは、その描写(情景描写、人物描写、心理描写)などの緻密さと、同時にその言葉遊びの面白さで、例えば冒頭のこんな風景描写:
The dirt in the cemetery is spongy and dry. There are no flowers at the unmarked grave, no clues, nothing to interpret but some anonymous, freshly scratched earth.
それからこんなのも:
The wind travels everywhere. But here, it is absolutely still, as if a circle around the old ruin defines a magical zone where the wind can’t penetrate. Something gray is moving through the trees in the distance.
……小説に限らず映画もだけど、アメリカのサバービアの、あの一種独特な閉塞感と抜け感のある情景は大好物なので、おまけにこのネチネチと(?)饒舌に語られる、一体何が起きているのかなかなか分からない感も好みで、こんな作品の味付けとして絵を選んでもらえて光栄です。しかも声をかけてくれた編集者が、もう尊敬するあの人(アメリカ・インディー版元の雄)で!! 祝杯じゃ!
……ということでお知らせでした。よろしければお読みください。
Stephen Beachy
Art by Mario Tauchi
Excerpted from the novel Glory Hole
なお、こないだ渋谷のフライング・ブックスで見つけた古き良き印刷版の『evergreen』やっぱり記念に買おうかな。